Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

オードリーの若林が漫才について考えること

若林は一度だけ仕事から逃げたことがある。2008年の特番の収録中だった。春日もあの時のことは昨日のことのように覚えている。「まあ、そうなるだろうな」とインタビュアーには応えていた。それ程に多忙な時期だった。年に2日や3日しか休みがない、それを何年も続けていたのだ。であれば休めばいい、が長年仕事がなかった影響か休みたくても休めない。それは春日も同じだった。いつか仕事が霧が晴れるように無くなってしまうんじゃないだろうか。しかも一瞬にして。一気に売れた芸人は仕事が急に増えた体験を忘れることができず、もしかして無くなるのも一瞬では?という妄想から逃れられない。同じように売れた南海キャンディーズ山里亮太も同じように証言している。

 


「時々思うんです、テレビに出てる今の僕が夢でいつか夢から覚めてまた仕事が全くなかったあの頃に戻るんじゃないかって」

 


それが芸人をハードワークに駆り立てる。神経をすり減らし鬱病やノイローゼになる人間なんてザラだ。何人もそれで引退した先輩を見ている。いずれおれもその地獄の底に落ちるのか、、若林は地獄に足一本入り込んでる感覚が抜けないでいた。このまま春日と地獄に落ちるのか、それとも天国へ向かうチケットを手に入れるのか。

 


春日に強く当たることが増える。少しのミスも許せない、笑に対する姿勢が自分と同等、またはそれ以上でないと許せないでいた。殺すぞ、ふざけんな、前にも言ったよな。怒号が飛び交う楽屋はその度に暗い雰囲気になりマネージャーはオドオドしている。こんなのお笑いをやる雰囲気じゃない。その度に春日は「そうでごんすなあ」と涼しい顔をして謝るでもなく、反抗するでもなく曖昧な返事をしてくるのだった。こいつは怖くないのだろうか。いつか俺たちの漫才を誰も笑わなくなってあの浅草のキサラに戻らなくてはいけない日が来るんじゃないかと。いや、もうすでにキサラにも居場所はなくて、オレらの帰る場所はとっくになくなってるんじゃないかって。M-1決勝2位の称号は片道キップだ。スターダムにのし上がるかか、それとも芸人として死ぬか。帰る場所が担保されて、売れるために挑戦できるほどこの業界は甘くない。それはオレが尊敬する諸先輩方を見れば明らかだ。ビックスモーン、ジョイマン、そしてかつて一斉を風靡したはなわさん。彼らは一体どこに行ってしまったのだろう。


みんなどこかに行ってしまった。おれもいつか舞台から去る日が来るのだろうか?今見てる光景、春日の横顔、若様と慕ってくれるファンたち、信頼の置けるスタッフ、そのすべてが幻になる日がいつか来る。だからこそ今この瞬間、一瞬の輝きでいいから美しく咲きそして散っていきたい。願わくばその日が来るのがもう少し先であることを祈って。