東証システムの月曜日は早い。朝6時にバッチ処理が終わり、業務開始前の
東証は終日までの売買停止を決めた。これは売買システムが稼働してから初めての出来事である
大野はしばらく呆然として晴海オフィスを眺めた。腹を切るしかない
A systemの管轄は開発第一の第二システム部(通称二シス)である。櫻井の内線に電話した
「櫻井です」
「大野ですが、お忙しいところ申し訳ないが状況を説明してくれ」
「なんとも・・・現在現場を当たっているメンバーに聞いていますが要領を得ないのです
「つまり?」
「原因不明です。ただ朝9時の取引かいしには間に合わないかと・・・インフラチームからはNASの切り替えがうまくいってないのでは、と」
「もちろんです、主系統が落ちても副系統に切り替わるはずです、はずですが・・・」
どうも状況が掴めない、現場が混乱していることだけが電話越しの会話から聞こえてくる。バックアップに切り替えろ・・・復旧目処は?ユーザへの連絡、早く・・・
早く第一報告の時間を決めないと、しかし虚偽の報告になるとそれ以降信用されないくなる。30分後か・・・大野は長年の経験からそう算出した。大規模システムの障害対応になんども経験した動物の感のようなものだ。
「7時30分にユーザー第一報告だ。それまでにわかることだけをまとめてくれ。事実だけでいい。わからないことはわからないで押し通す」
「すみません」
なるべく状況をまとめている
櫻井は憔悴しきっている。仕事はできるが気が弱いところがある。倒れなければいいが・・・大野は10年前の銀行の勘定系トラブルを思い出した。メガバンクのATMが全てストップした前代未聞のシステムトラブルである。当時のFはメインのベンダーではなかったため、障害対応に直接携わっていない、いないが火事の熱量は十分すぎるほど
ついに頭取が交代するまでに事態は悪化した。それほど社会インフラとよばれるシステムの責任は重い。
「24時間だな」
「は?」
「今日中のトラブル解決を目標とする。できなければ全員の首が飛ぶと思え」
開発部オフィスの全員が凍り付いた。
「みんな全ての作業を止めて障害トラブルに当たること。部間の壁はなくすようにしてくれ。全員が当事者意識を持つように。」
ここで東証システムの概要をおさらいしておこう。
2000年に更改されたこのシステムは「ドントストップ」を