Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

マーガレッド

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「時々、わからなくなるのよ。自分がどこから来て、どこへ行こうとしているのか」

「あなたはこの惑星で生まれた第2501 番目の戦士よ。住民票システムにもちゃんと記録されているわ」

「ううん、そういうのじゃないの。親の記憶だとか、子供の頃の記憶だとかそういうものがないのよ。昔はどういう人生を送ったのかを思い出すことができないの」

「センチメンタルね。あなたは戦士よ。戦うことに集中しなさい。戦うことでしかあなたは生きていけないの。私も、そう。この研究所を出たら何もないわ。基本的人権や普通の人の幸せというのは私たちには関係のないものだわ」

「それで幸せ?」

「もちろん、こうやってあなたたちと話せるし一般的な40代の女性が望む幸せ、結婚だとか、子供を持つということには縁がないかも知れないわ。けど好きな研究を続けることができるわ。仲間たちもいる、一人じゃない」

「もし・・・」

「なに?」

「もし、私が死んだら泣いてくれる?ううん、泣くふりだけでいいの」

「もちろん、あなたがいなくなったら悲しいわ。エスたちも仲間たちを失って悲しまない者なんていない」

「昨日、Laboの外に出てみたの、久しぶりにね。もちろん許可はとったわ。久しぶりの一人の時間だった。。中庭の墓地に行ってみたの。私たちの先祖が眠る、と言われている墓地に。とても綺麗だったわ。清掃されていて、私の好きな花があった。マーガレットというの」

「私も好きよ」

「花を添えてみたの。私も、みんなと同じように。そうしたら祖先のことたちが少し理解できたような気がしたわ。ううん、理解できたような気がようなきがするだけよね。でもあなたが言った、“一人じゃない“ということが少し理解できたような気がする。ここにいる限り私は一人じゃないって。もちろんここを去る権利は私にもあなたにもあるわ」

「そうね」

「でも、私はここにいる。ここにいると決めている。それでいいのかもしれないわね」

皆、iPhoneの前では素直になる

奥さんの顔よりiPhoneを眺めている時間の方が多くなってきた。家族にいると息が詰まり、書斎へと逃げ込んでしまう。ネットワークに繋がっている時の方が落ち着くのは何故だろう。感情をぶつける相手はいないのに、悩みを書き込む相手はここにある。つまりはパソコンだとかタブレットだとかのネットワーク接続端末のことである。私は疲れていた。仕事にも家庭にも。いや、生きることそのものが私にとって足かせであった。私は夢の中に生きようと思っていた。妄想や空想の世界に。現実は私が生きるのに辛すぎるのだ。皆、なぜそうも平然と自然に振る舞えるのか、わからないでいた。

ヒーローの条件

憧れたヒーローが存在しないと知ったのは16歳の夏だった。悪を挫き弱気を助ける誰もが憧れるヒーロー、NINTENDOスイッチも帽子もすへで赤に統一したのはもちろんヒーローの色が赤だからだ。ヒーローは必ず登場する。遅れて。そして最後には勝つのだ最後には。しかし現実はそうじゃない。政治家が汚職し、中学生はいじめで自殺する。パワハラが横行してそしてその原因を誰も突き詰めない、いや、突き止められない。悪は存在する。しかし正義は存在するのだろうか。僕には少なくとも、それが見えなかった。官僚の息子として生まれた。母親よりも家政婦を愛し、友よりも小説を愛した。人の温もりを知らない。

MCとしてのオレは、お前よりもっとうまく番組を回せるぜ

占いランキングにチャンネルを切り替えた。オレの嫌いな番組だ。占いという胡散臭いものに順位を付ける。A型とO型の相性がどうのこうのだとか、チーズケーキがどうたらやら、くたまらない会話が続く、いらいらさせる。話の構成がまとまりがなく、そしてオチがない。おれなら3分でもっと面白い話ができるぜ。少なくともお前より。


...という感情を抑えつつニコニコと相槌を打っていた。

ザボンラーメン・鹿児島

飛行機の機内は宇宙船の中を連想させる。皆々が二時間弱の旅行を楽しむでもなく(恐らくビジネスマンが多いのだろう)眠りに着いた。一様に同じような顔をしている。これからの仕事に備えるように、海外旅行特有の熱を持ったものは誰一人いない、様に映った。飛行機は果たして無事に飛び立ったが、誰一人として顔色を変えない。山下だけがそわそわとシートベルトを確認したり、物を書いている。寝付けないのだ。

「すみません、お客様」

若いスチュワーデスに声をかけられた。熟れた女で、色気が漏れそうであった。

「荷物は前の座席の下に置いていただけますか」

何百回と使った注意を山下に向けた。

「すみません」

余計な仕事を増やしたなと思った。無駄なことが嫌いなのだ。

途中でガムの様にまずいチョコレートを食わされた。窓の外はまるで何も見えない。沈黙が降りて、山下は自分の世界へと飛び立った。眠りは一向に降りてこない。

隣はサラリーマンと言った顔立ちで涼しい顔で寝息を立てている。旅に慣れているのだろう、自分も早くこうならなければ、と思った。スケジュールの確認をしたいがネットに繋がらないので諦めた。電源のプラグもないので、充電もできない。まあいい、着けばいいのだ。着けば。現地の気温だけが気になった。一月の鹿児島は寒いのだろうか。寒いのは苦手であった。そういえば羽田空港で朝飯を食っていない。離陸に遅れそうになり食べれなかったのだ。ひどい空腹だ。

生と死

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「生も死も表裏一体だ、どちらが欠けても成立しない光と陰のようなものだ」

「僕は死ぬのが怖いです、死を痛みをどう避けていけばいいかを考えてしまう。時々、夜ねれない時に死ぬ時の風景を考えることがあります。だんだんと意識が遠のいて視界がぼやけるのです。自分が消えるんです」

「死に飲みこまれてはならない。死を認めるのだ。動物も人間も全てが死へと向かっている。生きるとは死ぬことに向かうこととも言い換えることができるかもしれぬ。御覧なさい。草木が猪が狐が生を謳歌してるでしょう。今をしっかりと生きている。将来のことを不安に生きてるように思えますか?花が木が猿が鹿が、そのすべてが生を謳歌しているのです、たったいまこの星で」


外はまさに小春日和といった感じで彼が言う猿も猪も見当たらなかったが、彼には、多分、見えるのだろう。

例えば明日死ぬとして

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死について考える時、その時にだけが唯一全ての価値観を上まわるのです。病気も資産も株価の下落も自分が死ぬことに比べれば取るに足らないからに他なりません。たとえ仕事で失敗した、恥をかいたとしても死ぬことに比べれば大した問題ではないでしょう。人は死にます。100パーセント、だからこそ死生観をしっかり持っておかなければなりません。しかし、大抵の人は死ぬことについて日常的に考えることはありません。貯金をいかに増やすか?ということを考えている人の方が多いかもしれません。忙しいから?ちがいます、死を恐れているからです。恐ろしいことは考えたくないというのが人間の性でしょう。


死生観を持つということはどう生きるかということです。