Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

空想の人に恋するのは悪だろうか

それに対する批判の受け身も取れないし、かといって否定される理由もないように思える。思えば我々は空想に恋する動物ではないかと思う。恋した時にその人なりを本当に知っているか、恋とは幻想だと思う。であるなら二次創作であったり、馬や、戦艦、それらに恋したっていいんじゃないか。いや、それを理解しろよ、という気もない。恋愛観は人それぞれでそれらがお互いに理解することも、もはや不可能な時代に我々は生きているのだ。

 

アニメを追いかけている中年男性をいちいち否定しているアカウントを見ても何も感じなくなってきた。「元気だなあ」とつぶやいてTwitter のアプリを消すだけだ。分断されたこの世界で、統一された価値観なんて存在しない。


世界は見えない壁で囲まれていて絶対に交わることなく我々は生きているように思わないだろうか?オフィスで、ファミマで、いまその目の前にいる人がまるきり別の、そう宇宙人のように感じるのだ。


そういった時代を生きている。生きていくのだ。

ナチュラルに恋して

新宿の本屋でドヤガオで闊歩している馬鹿なカップルがいる、洋書や哲学書やら高そうな本を買っていて、たぶんお洒落な棚に飾るためだろう、と決めつけた。決めつけるのがおれのよくない癖だ。よくないと思いつつその癖が抜け切れない。一人、高そうな書店で買い物をするのは気がひけるし、いつまでたっても慣れない。ツタヤか地元の寂れた本屋で買い物をするのが性に合っている。身の丈に合わない、ということだろうか。小説好きな人々に囲まれるとどういった本を選べばいいか、悩み込んでしまうのだ。いま、ここで、おれが、読むべき本とは?いや、そんなのが初めから存在しないし、気の向くまま読みたい本を選べばいいだけなのだ。ただ時に読むべき本を選ばないといけないような気がしてくる。日本文学、哲学書、SF作品、往年の名作、など、「え?こんなのも読んでないの?」といつか言われる日が来るかもしれないと、戦々恐々としてしまう。そんな日は永遠に訪れないに。もっとシンプルに自由に本が読みたい、エロ本だろうが、漫画だろうが、心のおもむくままに。ドフトエスフキーだってナチュラルに読みたいのに。

今日、最後のオフィスで

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段ボールから様々なものが出てきた。田中は手を止めてそれを見る、写真、研修の資料、仕様書、など。それらはもう必要ないものだ、今日、必要なくなるものたちだ。最後の日にパソコンを片付ける、明日からはタクシードライバーだ。コンパイル、デバック、エディタ、サーバーそれらの知識は全て不要になる、この日を境にして。色々なことがあったような気もするし、まるでなかったような気もする。何せ30年の歴史がこの机に詰まっているのだ。辛いことの方が多かった。京浜東北線に乗るときに楽しかった思い出は一度もない。以来、休日にこの鉄道を使うことはなくなった。プライベートの時間で仕事を思い出したくないからだ。


「田中さん、辞めるんですか?みんな知らなかった、って言ってますよ」

後輩から声を掛けられて動揺する。

「ああ、誰にも言ってないからな」

笑ってもらおうと、愛想笑いをしたがキョトンとされてしまった。当然だ、あんなに会社に迷惑をかけた人間が去るのだ。田中というエンジニアは今日で死ぬ。あまり、目立ちたくない。

「みんなびっくりしてますよ。誰にも言ってないから。次の仕事はきまってるんです?落ち着いたら飲みましょうよ」

岡崎と言った。

根回しの効く愛想のいい奴だ。たぶん、この会社で生き残るのはオレではなくこういうやつだろう。いわゆる、要領の良いヤツってことだ。

全てを憎んだ、会社を客を、果ては社会を。一緒懸命に生きた、しゃべって、レビューして徹夜して、最終的な仕打ちがこれかと、嘆いた、そんな夜もあった。新橋のスナックの話だ。

「なあ、すまないが・・・」

言いにくそうに口火を切った。

「オレだと思って、この名刺用紙を受け取っちゃくれないか?家に置いてもおっかさんが煙たがるんだ」

「はあ」

不思議そうな顔をする。何もできなかったし、何も残せなかった、ただ。おれは一生懸命に生き、そして、最後には報われる、そう思った。しかし、最後には要領の良さがこの会社には残るのだ。と。うまく人に仕事を押し付け、自分は安定したポジションにいる、客と喧嘩はしない、部下は守らない、利益を優先する。そういうのが会社には必要なのだ。部下の休みを巡って銀行と喧嘩しちゃだめなのだ。

大企業とは言え、海外のデジタル革新の波には勝てるはずもなく、次から次へと買収され、分社化され、部門の切り売りが断行された。おれもその煽りを受け「希望退職」という名の人選整理を受けた。自分ではやれてたつもりだった。だったが、会社は評価してくれなかった。まあ、いいさ。もともとエンジニアなんてそんなに興味があるわけではない。嫌々やってた仕事だ。あしたからタクシーで嫌な上司と顔を付き合わせない、自由気ままな生活をするさ。仕事をしたい時にして、休みたいときに休む。年収は相当落ちるだろうが、娘ももう独立している。嫁だってパートを始めた。二人と小型犬を養うには十二分に蓄えがあるのだ。


「なんです?それ」

岡崎が指さしたそれは10枚のA4サイズのコピーだった。

(なんだろうな?)

まるで覚えがない。なにか重要な設計書だろうか?重要機密は廃棄するようにしている。そういう慎重さはだれよりも持っていた。

「ああ・・・」

そう漏らして、頬が緩む。まだこんなもんが残ってたんだな。

「同期との写真だな、もう何年も会ってないが」

「へー、皆さん若かったんですね、昔は」

「そりゃ、はじめからおじさんおばさんってわけじゃないんだぜ。お前にもおじさん、って呼ばれる日が来るさ」

同期と一緒に撮った熱海の研修旅行の写真ではみんなが笑顔だった。もう、半分も会社には残っていない。若いってのはいい、なにも怖くないからな。失うものも守るものもない。夢にあふれている。そしておれは歳を取った。夢も希望もない。あるのは住宅ローンと腹にたまった中性脂肪だけだ。

「今のうちに貯金しとけ。経済感覚が乏しい男に女は寄ってこないぞ」

「へーい、真摯に受け取っておきます」

「お前は、最後まで減らず口が治らないな」

ポンと頭をたたくふりをする。出社最後の日に声を掛けてくれる人がいる、それだけでありがたいことなのだ。

心に潜む修羅と

確実に思う、自分の中には修羅が潜んでいると。時々、自分自身を抑えきれない、衝動にかられ、夜な夜な看板を蹴る、ゴミ箱を踏みつける。自分を抑えきれない。いつかとんでもないことをするのでは、と思うこともある。


心が満たされない、夜眠れない、なにもする気が起きない。飯がまずい、政治が悪い、世の中の見通しが暗い。全てが悪い悪いほうへと行くのであった。


ゆらりゆらり、と暗い街へと足を運ぶ。ふと川を見た。飛び降りれば溺死できそうなちょうどよい川だ。満月だけが私を照らしている。

ハイネケンとギター

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが僕の時代にもたらせたものは、色々ありすぎてここには書ききれない。友人と行った代々木公園のゲリラライブ、夜のドライブで流したゲットアップルーシー、初めてギターを触った時に見よう見真似でやったカッティング、そして、ラストライブの日に2ちゃんねるハイネケンを飲みながら見た仲間たち、二十代の青春の中にミッシェルは確かにいた。初対面でも「なに?ミッシェル聞いてんの?いいじゃん」それだけで友達になれた。あの時のロックキッズの共通言語は間違いなく、ハイロウズブランキー、そしてミッシェルだった。


チバが吠える、アベが嵐のようなギターを鳴らす、ウエノがシブいベースラインを流す、キュウちゃんがうねるようなドラムスをグルーブする。それだけがかっこよかった。ロックに勝ち負けは存在しないが、間違いなく彼らのライブは勝ちだった。勝ちだと錯覚させてくれた。


代々木公園のゲリラライブにオレは知人と行った。雨の中、目の冷めるようなライブだった。DVDだってスレ切れるほど聞いた。いまはもう手放してしまったけれども。新譜のCDを開ける時のドキドキ感を、歌詞カードを丁寧に読みふける時の高揚感を、オレは知ってる。


フェイスブックで知り合った女性がイライラしながらミッシェルのことを語ってくれたのもいい思い出だ。なんにせよロック好きはめんどくさい生き物だ。


音楽はその人の欲望や内面を反映しているような気がするがミッシェルは日頃の鬱憤を晴らしてくれたり、破壊衝動を代行してくれたと思う。あのステージで大音量のギターを聞いたら、そりゃ日々の鬱憤なんて晴れるものさ。

 

もしかしたら鬱憤ばらしこそがロックの役割なのかもしれないね。

狂人に憧れて

長いこと放浪していると、人が恋しくなり、地方の大衆酒場を探してしまう。金がないから贅沢はできない。ホッピーか黒ラベルとユッケか刺身でセンベロ出来ればばんばいざいだ。地方の話を聞く、政治や噂の類を。身内の取るに足らない話をふむふむと聞く。突っ込んだ話をすることはない。時々家に呼ばれることもあるが大抵はことわる。人に貸しを作るのがひどくにかでなのだ。


どれほど放浪しているのか、もう忘れてしまった。いくつかの安い恋をして、南北へもふらりと。貯金も底をつき、将来の展望もまるでない。まるでないが、自由だけは有り余る。ハーモニカで昔の歌謡曲を吹く。美空ひばり吉田拓郎松任谷由実、はてはあいみょんラッドウィンプスなんかもやっちゃうよ。

さまよえる勘定系クラウド

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大手町の朝は忙しかった。電話が鳴り止まず、部長や幹部は青い顔をして、まるで宿題を忘れた小学生のように戦々恐々としている。

(なにかが起きたな)

ネットニュースやらSNS漁っても特段、関係ありそうなトピックが見当たらなかったので金融庁からのおとがめ(営業停止)はなさそうだが。

「晴海で事故?」

青田幹部の叫び声がオフィス中に響き渡る。禿げ上がった頭が茹でタコのようになっていて中谷は思わず吹き出しそうになった。晴海には営業部門の本丸がある、であればセキュリティの重大インシデントか上層部の逮捕か、どちらにしろエンジニアである、中谷には関係ないことだ。システムトラブルであれば個人携帯にまず連絡が行くことになっている。エンジニアにとって本社のトラブルや幹部の逮捕にはあまり関心がない。どうでもいいことだ。大手企業にとって、法令違反など、日常茶飯事だ。情報統制されるため小さいニュースはもみ消されるが、大小合わせれば年間100以上のコンプライアンス違反が行われている。そのなかでもやりすぎた違反がいわゆる我々が目にする事件と言われるニュースだ。それでしかない。


中谷に関係あるのは勘定系トラブルやネットワーク障害などのシステム系トラブルだ。幹部の女性問題やインサイダー取引などは、芸能人のスキャンダルほどの意味しかない。


「聞いたか?中谷」

「どうせ幹部のSM写真が流出したとか週刊誌のネタだろ?」

「いや、どうやら違うらしい」

営業の曽山は上層部にも顔が聞くため、この類のネタは早く手に入れる。ゴシップ好きが高じて暴露本を出す勢いだ。