「時々、わからなくなるのよ。自分がどこから来て、どこへ行こうとしているのか」
「あなたはこの惑星で生まれた第2501 番目の戦士よ。住民票システムにもちゃんと記録されているわ」
「ううん、そういうのじゃないの。親の記憶だとか、子供の頃の記憶だとかそういうものがないのよ。昔はどういう人生を送ったのかを思い出すことができないの」
「センチメンタルね。あなたは戦士よ。戦うことに集中しなさい。戦うことでしかあなたは生きていけないの。私も、そう。この研究所を出たら何もないわ。基本的人権や普通の人の幸せというのは私たちには関係のないものだわ」
「それで幸せ?」
「もちろん、こうやってあなたたちと話せるし一般的な40代の女性が望む幸せ、結婚だとか、子供を持つということには縁がないかも知れないわ。けど好きな研究を続けることができるわ。仲間たちもいる、一人じゃない」
「もし・・・」
「なに?」
「もし、私が死んだら泣いてくれる?ううん、泣くふりだけでいいの」
「もちろん、あなたがいなくなったら悲しいわ。エスたちも仲間たちを失って悲しまない者なんていない」
「昨日、Laboの外に出てみたの、久しぶりにね。もちろん許可はとったわ。久しぶりの一人の時間だった。。中庭の墓地に行ってみたの。私たちの先祖が眠る、と言われている墓地に。とても綺麗だったわ。清掃されていて、私の好きな花があった。マーガレットというの」
「私も好きよ」
「花を添えてみたの。私も、みんなと同じように。そうしたら祖先のことたちが少し理解できたような気がしたわ。ううん、理解できたような気がようなきがするだけよね。でもあなたが言った、“一人じゃない“ということが少し理解できたような気がする。ここにいる限り私は一人じゃないって。もちろんここを去る権利は私にもあなたにもあるわ」
「そうね」
「でも、私はここにいる。ここにいると決めている。それでいいのかもしれないわね」