Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

還れ、全て虚無へ、獣となれ

f:id:kazuun_nabe0128:20181002064528j:image

ネズミと初めてあったときのことははっきりと覚えていない。たぶん、大学のコンパか何かで意気投合して、サントリーのビールを浴びるほど飲んだ僕たちは、海岸まで歩こうということになり、午前5時だというのに2キロほど歩いて、海岸までたどりついたのだった。

 

どこまでも汚い海だった。

今にも雨が降りそうなどんよりとした雲を眺めなら残りの缶ビールを飲み干したネズミは吐き出すように言った

「金持ちはね、はっきり言って害だよ。」

「金持ちなの?」

「そうらしいね、でも、俺のせいじゃない。

勝手に金持ちの家に生まれただけだ」

「だろうね」

聞いた後で僕は後悔した。いつもそうだが、喋ったあとにいつも後悔する。こんなこと聞くべきじゃなかったんだ、はじめから。

「金持ちがなぜ害なのかわかるか?」

「いや、わからないね。なぜだろう?」

「はっきり言って金持ちは想像力がないのさ。

なんでも金で解決できると思ってやがる。女も仕事も人災も。でもさ、世の中金で解決できないことは山ほどある、例えば月が綺麗だと思うことだとか、そういう、なんだろう、うまく言葉にできないや。」

「やめりゃいい、金持ちなんて」

、、、

長い沈黙が続いた。

こんなこと言うべきじゃなかった。僕はいつも言った後に後悔する。どうしようもないことが、世界にはあふれていて、僕らはそう言うものに折り合いをつけるしかないのだ。そう、いつだって。

 

※※※

 

だれも自分のことを理解してくれないと感じることが多くなった。

これは珍しいことだ。

愛想笑いをして、調子のいいことを言って、

自分をさらけ出して笑ったのはいつだっだろう?

人と会い酒を酌み交わして、談笑して、話すことは恋愛か、有名人か、それか金の話だ

どこまでも非生産的だと思った。

でも、本を読んでいたって、それは一緒だと思った。

 

生きることに意味なんてない

でも何か価値のあることをしたいと思った

踊るんだよ、うまくね

と、カエル君は言った

 

どうせ意味のない人生だったら、楽しんだ方の勝ちじゃないか?君に必要なのはダンスさ

リズムをとって踊るのさ

 

ダンスダンスダンス

 

ぐるぐるまわり、頭も空っぽになり、手足を紐のようにダラダラさせながら

 

※※※

 

突然、本棚にある本を捨てたくなって近くの川沿いで全て燃やそうと思った

ガソリンを調達し、川沿いの木や枝を集めて

 

10月にしては肌寒い日だった

眩しいほどに太陽が照りつけてるのだけど、風が吹くと容赦なく肌寒い風が、ぼくの足を腕を攻撃してきた。

 

もうすぐ冬が来る。

 

リスたちがクマたちが鹿たちが、冬に備えて巣穴の整理をしているんだろう、そんな風に僕は頭の中に映像を浮かべた。

 

何かを捨てるということは、何かを得ることと当価値なんだ、なにかの本に書いてあいてあったっけ。

 

これは儀式だ

 

僕自身を仮想的に殺す、自分だけの葬式

 

いつの頃だったろうか、死ぬことや壊れることに強烈に惹かれるようになったのは。

完璧なクリーンなものに嫌悪感を抱くようになり、どこまでもカオスで汚いものに惹かれるようになった。

そこにしか真実がないような気がして。

 

この世の中で一番汚い感情はなんだろうか?

それは犯罪者の心理だ。

 

ぐちゃぐちゃで、目をおおいたくなるような汚い心理

いつの日か世間で賑わす残酷な事件が起こるたびに、その残虐性な行動や奇行そのものより、犯罪者の心理へ僕の関心は向かった。

 

これは、もう一つの、ありえたかもしれない僕だと思った。

凶悪な犯罪者と、ぼくに大した違いはない。

一つボタンを掛け違えれば、ぼくは彼ら、または彼女らになりえたのだ。

 

そうであれば彼ら彼女らは、ぼく達の代わりに犯罪者になったと言えないだろうか?

 

もちろんこれは仮の話だ

 

もしあのときこうしたら、こうしてたら

あるいは僕は彼ら、彼女になり得たかもしれないという、あくまで仮想の話

ありえたかもしれない未来

もし?というイフの話

 

でもぼくらはそう言う無限とも言える可能性の中で、奇跡のように息をしているのだ、

かろうじて人間のような形をしているのだ。

ぼくもあなたも。そして、あなたが生んだかもしれない子供も。

 

※※※

 

あなたは死の淵に片足を突っ込んでるのよ

そう言って彼女は満足そうにマルゲリータを飲み干した

 

その飲み方があまりに美しくてiPhoneで撮ろうかと思ったぐらいだ

僕はマルゲリータをそんなに綺麗に飲む人を見たことがない、これからもそれは変わらないだろう。

 

「死の淵に片足を突っ込んでるってどういうことだろう?」

僕は試しに聞いてみた。多分思いついたことを口にしたんだと思ったからだ。文学部を専攻した女子学生にありがちなことだ。

意味ありげなことを、意味ありそうに言う

どこかの、本で書いてあった薄っぺらい、でもなにか哲学的な雰囲気を醸し出し、でもそれは哲学でもなんでもなく、テーゼの逆を言っただけのチープな言葉

 

「あなたって死ぬときにどう言う風景を見ると思う」

「いや、どう言う風景だろう?わからないな」

「ちょっとだけ想像してみて、自分が死ぬその瞬間、一体どう言う風景が見えるのかを。」

僕は1分だけ。想像してみた

永遠とも言える1分だった。

 

パチン

 

時間がだった、きっちり1分経過したことをセイコーは刻んでいた。いつもの通り、正確な時刻だ。

セイコーはいつも正確な時間を刻む

間違えるのはぼくたち使う側の人間だ

約束だとか。恋愛だとか。人生だとか。

 

どう?想像はついたかしら

 

わからないな、想像もできない

 

想像力が足りないひとね

このひとはいつも強い言葉を僕に投げかける

 

死ぬときどんな風景が見えるか、だなんて20代の

そう、ぼくらはそのとき20代だった。

の若者に想像するのは難しい。今を生きるのに精一杯の。ぼくたちにとって

 

ちなみに、あなたはどんな風景が見えるの?

 

人が質問するときは自分がその質問について喋りたいときだ

どこかの週刊誌の受け入れ通りにぼくは質問してみた。

 

そうね

まずは、一面の花畑が目に見えるわ

 

とんだ少女趣味だ

と思ったことを飲み込んで僕は言った

 

「それで?」

 

「誰かが、私の首を絞めてるの

でもそれは私の愛する人

とても大事な人なの」

愛する人に殺されたいの?」

とんだマゾフィストだ

 

「そう、かもしれない

でも誰かに殺されたい、って思ったことない?

この地獄のような世界に終止符を打ちたいの」

「自殺すれば良い」

「そうかもしれないはね、あるいは

でも私にとって自らの命を絶つのは一番卑怯なことなの

犯罪よりやってはいけないこと

 

なぜだろう?

 

なぜって?そんなこともわからないの?あなた、国立でしょ

まあ、一応そう言うことになってる

そう、僕は一応、名門と言われている大学に在住している。でも頭の中はからっぽだ。

 

狐がネズミが猫が、自ら命を絶つことがあるかしら

全ての命は生を受けてその生をまっとうするまでい一生懸命に恋をして子供を産み、そして死ぬまでその生をまっとうするのよ

だれも自ら命を絶つことはしない

命が枯れるのは自然が決め、自らが決めいけないの

 

、、、

 

長い沈黙だった

たしかにそうかもしれない、と思わせる迫力で彼女はしゃべっていた。

時々つばが飛ぶのをみて、僕は見て見ないふりをした。

汚い、と思った。

どこまでも汚い女だ。

 

どんな女だろうが、本心をさらけ出した瞬間に汚くなり、興味がなくなる。

興味があるのは、その前の理性を保った瞬間だけだ。

ガチガチにガードをして相手を値踏みしてる瞬間、このひとは年収がいくらで、学歴はどれくらいで、何人の女と寝たのか

そういう値踏みをしている時だけ、ぼくは興味をそそられる。

そのあとはどうでもいい。

 

手に入れた、と思った瞬間に興味がなくなる。

抱くということではない。

 

自分をさらけ出し、醜く自分の悩みや本音を露土路としている姿を見た瞬間に、

すべてが白けてしまう。

 

いつまでもいつまでも手に入れない、存在でいてほしい。

 

結局、彼女とはそれきり会うことはなかった

連絡先は知っていたけど、それ以上踏み込むことに躊躇し、まあいきなり死にたいと告白する女の子に興味があるほうが稀有なことだと思うけど

 

なんとなく疎遠になってしまったのだ。

黒髪の似合う、少し影のある、マルゲリータの似合う女の子、

 

すこしタバコを嗜み、夜型で、三島由紀夫を愛し、この世を全てを憎んでる。

そして死ぬことの願望がある。

 

それ以来、なにかの呪いのように

死について考えるようになった。

まるで体についたあざのように、その意識は払拭しなかった。

電車のなかで、居酒屋で、食事中で

ふとあの時の風景を思い出すのだ

愛される人に殺されたいの、という願望

 

滅びゆくものほど美しいと、なにかの本に書いてあった

国家が人間が文明が滅びゆく瞬間

今まで正しいと思ったものが崩れてゆく瞬間

ものを構築する時よりもその構築されたものが、壊れて、消えてゆく時の方が一番美しいのではないだろうか

子供が積み木を積んだ後に、わざわざそれを壊すのは、あるいはその証明にはならないだろうか

 

男女が別れる時

愛するものと死別する時

小国が大国による圧倒的な戦力に押し潰れるとき

大手証券会社が事実上の倒産となり、記者会見で、涙ながらに、社員は悪くないと社長がかばっている、その表情

 

消えて行けばいい、全て、無に還ればいい

 

そんなことを考えて、24歳の夏、自宅のガレージで僕は自らの命を絶った。

あっという間の人生だった。