Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

蛇の女

その女は村で3人の男と交わり、その交わった男達はすべからず死んでいった。黒髪の美しい女であった。が、奇妙な笑い方をする女であった。まるで悲痛の叫びを叫ぶように、引きつった笑いをした。私はその笑いが嫌いであった。


奇妙なことだが(そう、この話は奇妙なことだらけだ)


蛇のような女であったが。美しくそして冷たい笑いをした。


この溝の海村ではよそ者を排除する傾向があったが、この女は村長を取り込んだのだろう(あくまで私の見る限り)すんなりとこの村に溶け込んだように、見えた。見えたという表現を使うには訳がある。毎朝、挨拶はする、愛想はいい、最低限の会合には出席する、しかし村で重要とされる葬式や自治会の打ち合わせには、なぜか現れないのだ。老人達もとくにそれについて触れることはしない。ある程度、距離を置いて存在してるような気がしていた。


少しずつではあるが、この村が変化しているような気がしていた。そして、その中心に、その女はいた。


(村長も男だ...綺麗な女に甘いのだろう)


はじめはそう、たかをくくっていた。その時点ではそれぐらいの印象でしかなかった。しかし、そうではなかった。男も女もどうやらその蛇の女に取り込まれていたようなのだ。


もはや議会は機能していなかった。蛇女のために道ができ信号ができ、そして政治も取り込まれていった。求婚するものも幾人かいた。しかし、特定の男に寄り添わないのが蛇女のやり口であった。急に近づいては離れる、その繰り返しだ。


私は村を離れることにした。少し、ゆっくりと考えてみたいと思ったのだ。当然、この村から離れることはできない、それは理解していた。事業も介護中の親もいる。この地から離れて生きることはできないのだ。この地に生まれ、育ち、そして骨をうずめるつもりだ。

 

ただその前に少しゆっくりと考えたいと思ったのだ。ただそれだけのこと。