Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

ある殺人犯の告白

「刑事さん、あなたは人を殺したいと思ったことはありますか?いや、これはもしもの話です。実際にやるわけじゃない、恋人が奪われた時、教師に叱咤された時、バイトでムカつく客にケチつけられた時、何だっていいんです。人生でムカつく相手がいた時に殺意が芽生えるなんて当然のことです。私はね、そんな殺意が毎日続いてました。誰にですって?誰にじゃない、【全員に】ですよ。人類という忌むべき存在そのものに全て殺意を抱いてたんです。そうだ、こういう話を知ってますか?ある科学者が人間一人生きるのに自然に与えるダメージを計算したんです。食べる動物、車などの移動で排出する二酸化炭素が与えるオゾン層への影響、使う電気による森林の伐採などですね。そうすると地球保全には人類がいなくなるのが一番の解決策になるそうですよ」

「...」

「別に地球を救いたいと思ってるわけじゃないんです。ただね、善人面して地球を守ろうって叫んでる奴らが気にくわないんです。地球をコントロールしようってのがおこがましい。私はナチュラリストじゃありません。でも社会の矛盾に目を背けるほど脳は腐っちゃいない。大量消費のために子犬を産ませてそして殺すペット産業、延命治療のために多額の税金を投入する高額医療、不健康を促進するジャンクフード、世の中には矛盾がでかいツラしてのさばっている、まるでそれが唯一の正義だと言わんばかりに」

「じゃああんたの行ってる大量殺人は正義だと?殺された者の家族、知人の気持ちはどうなる?」

「フッ...そんなの人類が犯した罪に比べれば軽いものですよ。森を追われた狐や猿たちの叫び声があなたには聞こえないんですか?わたしには聞こえる。地球の叫びがね。何かを成すには何かを犠牲しなければならない、つまりはそういうことです。刑事さん、わたしはね、罪を犯すたびに何をしてるんだろう?って自問自答してましたよ。こんなリスクを背負ってなんのためになるんだろうって。人を殺すって案外疲れるんですよ。バラバラに刻んで、それを形がなくなるまで鍋で煮て、そしてトイレに流すんです。1日じゃ終わらない途方も無い作業です。一人殺す頃にはヘトヘトに疲れてる。残るのは徒労感だけです。なんの達成感もない、身もこころもボロボロになる。でも気が立って寝れない。だからソープに行って抜いてもらわないと寝付けないんです」

「私はね、本当のことが知りたいだけなんですよ。エコカーを増やしたって、太陽発電を日本中に設置したって企業が潤うだけじゃないですか。本当に、地球を救うって真剣に考えてるひとっているんでしょうか?いや環境保全だけじゃない。紛争地域で殺されてる子供達、貧困で困っているストリートチルドレン、性差別で被害を受けているゲイやレズビアン、それらの問題を真正面から向き合ってる人なんているんでしょうか?」

「だから殺人を?ずいぶん短絡的な発想だな、ああ?」

「思想より実行ですよ、それが私にできる唯一の正義のようなものだったんです、今となってはね。ただ冷静になってみると私は何をしたかったのかわからなかった。そもそもなにをしたかったんだろう。そもそも...」

寝ても覚めても心の奥から声が聞こえてくるんです。血を...血を捧げろ...とね、ああ薬はやってませんので検査はしなくて結構です、クックック。よくね、間違えられるですよ、覚醒剤の常習犯じゃないかって。マリファナもやらずに幻覚が見れるのは結構珍しいらしいですよ?よく知人にはすごいと言われましたよ。それが私の唯一の誇りって言えばまあ誇りでしょうね。ナチスの選民意識っていうんですかね、選ばれた民という考えがないって言えば嘘になるでしょう。でもね、刑事さん、私は何にもなれなかった、そうでしょう?戦争も無くせなかった、哀れな子羊ですよ。」

「あんたね、世の中色々な矛盾が氾濫してるよ。この仕事だってね矛盾だらけよ。違法捜査、司法取引その他言えないことはそれこそ星の数ほどある。でもねそれから目を背けてるわけじゃない、【飲み込みながら】走ってるのよ。それでも何かの役にはたつかもしれないってね。あんた結婚はしてるの?」

「してるように見えます?」

「だろうね。結婚はいいものだよ、家内がいて子供がいて、いつも仲良いわけじゃないけど。食卓を囲むじゃない?そうすると、ああそれだけでいいなあって思える瞬間があるのよ。たまにね。」

「そういうのを健康な精神って言うんですよ。わからないでしょうね。腐敗した脳で生きるしかなかった者の苦しみを。私は理解されなかった、誰にもね。ずっと無視されてきたんです社会から。刑事さん、あんたを非難するつもりは無いですけどね、私を生んだのはそういう健康な精神を持った連中なんですよ。偽善者たちが正義のナタをふるって頭を叩き、背中を焼き、そして最後には目を潰したんです。それがまるで社会のためと言わんばかりに。それらがすべて社会のためになると信じて疑わないで。私はやがてモンスターになりました。人を殺め、血と肉を食うためのモンスターに。かろうじて形だけは人間ですが、もはや過去の名前は忘れました。そうソネヤマリュウタという人間はとっくに抹殺されてるのです。社会からね。今あなたの目の前にいるのはソネヤマリュウタとかつて呼ばれた何かです。それ以上でもそれ以下でもありません。」

「・・・」

「はやく私を処刑してほしい、それが唯一の希望です。ただ覚えていてほしいのは、第2、第3のモンスターもやがて生まれようとしてるということです。それも加速度を増してね。刑事さん、あなたの子供もどこかかくまったほうがいい、ちょうどあの子のように無残な姿になりたくなければね。クックック。」

「あんた、いかれてるよ、完全に」

「ありがとう、褒め言葉ですよ、私にとってはね。」