Kaz Works

テクノロジーは人に寄り添ってこそ意味があるらしい

最後の誓い

f:id:kazuun_nabe0128:20240304215139j:image

「時々思うんだ、肉体と精神を極限まで向上し、圧倒的な強さで弱者をねじ伏せたとき、達成感とともに虚しさが沸き起こってくる。一体なんのためにこんなことをしているのか?と。勝負の結果が見えている戦いほど虚しいものはない。いや、それはもう勝負ですらない、なぜなら負けがないからね。圧倒的な強さで一方的に相手を叩き潰すのは、暴力以外の何ものでもないよ」

「同感だね、ただ、これから行われる戦いは暴力にはならない、なぜならおれがお前より強いからだ。圧倒的にな」

「ほぅ、いつからそんな大口を叩くようになったんだ?姉が目の前で殺された時、お前は後ろにコソコソ隠れていたただけのガキだったはずだ」

「覚えていたのか、意外だな。俺は貴様のことを1日たりとも忘れたことはない」

「うっすらとね、トルフィンから説明を受けた時になんとなく思い出した。10年前、イルムの街を襲った時に子供のエルフがいたような気がする。あの時、村人は全員殺したはずだが、なるほど、あの時の生き残りがお前だったのか。それならば合点行く、やたらとここら辺に詳しいはずだぜ。当たり前だ。ここに住んでいたんだからな。そのおかげで大切な部下を失ってしまった。10年か、月日が経つのは早い、あんな小さなエルフをこんな立派な戦士に育てるんだからな、これから10年またたててばまた若い戦士が育つ、その反面私は老いぼれて行くだけだ」

「未来のことを悩む必要はない、何故ならお前はここで死ぬからだ」

「ほざくな、あまり強い言葉を使うと弱く見えるぞ、辺境の地イルムの戦士よ、奢りはいずれ自身の破滅を呼ぶ。そのことを今から教えてやろう。知るがいい格の差というやつを」


ガンマーが詠唱を始めた時、カインは既に悟った、ここで俺は死ぬ、と。先ほどの戯言は根拠のない発言であった。圧倒的な戦力差があっても一度会話をしてみたかったのだ。長年、自身を縛り付けた宿敵と。何を考えそして何を思っているのか?我々の種族は何故滅ぼされる必要があったのか。その運命を決定ずけたもには何か。答えはなかった。いや、無くても良かったのかもしれない。初めからそんなものはなかったのだ。その確証を得たかった。


この旅も終わりを告げるだろう。自身の死をもって。であるならせめて刺し違えてえてやるつもりであった。腕の一本でも冥土の土産に持ち帰りたい。たとえそれが命と引き換えであっても。


キィィンと重い銅製の音が鳴り響いた。強く、だが正確な斬撃がカインを容赦なく襲いかかる、右から左から、時に後ろからそれは急所を狙う。